介護施設の耐震化対策、ここがポイント

阪神淡路大震災、東日本大震災を経て、地震が起きても建物が倒壊しにくい耐震化に対する気運が高まりつつあります。介護施設も例外ではありません。 そこで「耐震化対策」プロにお話をうかがいました。 耐震診断と改修をワンストップで請け負う新日本管財株式会社の建物診断部・取締役部長のAさん、新日本リフォーム株式会社の取締役兼営業部長・経営企画部長のBさん、営業部担当部長のCさんに、耐震化について解説していただきました。

北海道、大阪、熊本と地震の連続で、高まる耐震化の気運



――最近、耐震化の問い合わせが多いようですね。

Cさん: 多くなりました。耐震化対策をしていること自体が、入居者に安心感を与えられます。

Bさん: 北海道、大阪、熊本と大きな地震が続いて「地震はいつか来るものだ」という認識が定着しました。したがって、地震が発生したあとで災害復旧するのではなく、「震災に備えるべきである」という考え方が普及しています。マンションに関しては区・市の認可が得られれば、居住者の2分の1以上の特別決議で、耐震補強工事の実施決議が出来る(=第25条申請)という法律改正も進行しています。

――耐震化に対する意識が高まっているようです。まず介護施設に限らず、一般的な耐震化のトレンドについて教えてください。

Aさん: 私は構造設計を40年ぐらいやっていますが、地震が起こるたびに耐震の気運は高まっていました。しかし、3年ぐらいすると薄れてしまうものです。阪神大震災のときにも耐震に対する意識が高まりましたが、その後、低下しました。ただ、東日本大震災だけは別ですね。津波が衝撃的だったこともあり、いまだに注目され続けています。
ホテルでは5,000m2以上の建物に行政が11~70%程度の補助金(*)を出して耐震化を支援していますが、「今期に設計する建物を最後にしたい」と補助金の期限を定め始めました。
(*)助成率は、都道府県により異なります。
Bさん: なかなか耐震化が進まないので、耐震化を実施していないホテルの名前を公表し始めています。週刊誌が具体的なホテル名を取り上げるので、耐震化に対応していないホテルは大きなデメリットになります。

――それはホテルだけでしょうか。

Aさん: いいえ。建物全般にいえます。「耐震化を進めていないのはけしからん」ということで、国が力を入れ始めたんですね。ホテルは特にインバウンド(訪日外国人)に対する需要で景気を左右するため、力を入れているのではないか、と推測しています。

――となると、建物のオーナーのみなさんは困るのではないでしょうか。

Bさん: そこで私たちに相談が集まっています。というのは、弊社は数十年もの間、耐震診断・設計と改修工事を事業として展開してきました。耐震化の診断・設計と改修工事の両方を手がけられる企業は、他にはありません。そこで、これまでコツコツと続けてきた事業に脚光が当たるようになったのです。

耐震化制度は東京が先行、しかし区の予算によって地域格差が大きい



――数十年もの実績があるということは、それだけ知識やノウハウが蓄積されているわけですね。耐震化の制度について教えていただけますか。

Bさん: 耐震基準には、「旧耐震基準」と「新耐震基準」があります。昭和56年に導入されたのが「新耐震基準」です。さらに平成25年の「改正耐震改修促進法」が契機になっています。延べ面積が5,000㎡以上で不特定多数が集まるホテルや映画館などでは、昭和56年以前の旧耐震基準の建物において耐震診断が義務化されました。

もうひとつはローカルルールですが、東京都には「特定緊急輸送道路」という制度があります。皮肉なことに東日本大震災が起きた3.11に都議会で決議された制度です。東京都の環状七号線など主要幹線道路、首都高速も含めて、その沿道の建物は新耐震基準相当の耐震性能確保が義務化されました。阪神淡路大震災のように道路に建物が倒れて、交通が断絶することを避けるためです。東京都が条例を定めました。

Cさん: 都内のいくつかの区では沿道の建物の耐震化に力を入れています。しかしながら23区それぞれ耐震化の予算に格差があるのが実態です。耐震化のために予算を確保できない区もありますね。

Bさん: 耐震診断では最大100%の補助金が出ます。耐震補強設計では限度額がありますが、最大で100%出る場合もあります。これは東京都ですが、それぞれの区でも緊急輸送道路の耐震判定の基準を作っています。東京都は積極的に進めていて、弱者救済として、23区で助成金を出す地域が多くなりました。

関東圏に関していえば、東京や神奈川県では積極的ですが、千葉県や埼玉県ではまだ制度がありません。地域による格差があります。ただ、今後は制度化される可能性が高いといえるでしょう。

耐震補強の工法の種類

昭和56年以前に建設され、病院や寮などから介護施設にリフォームした場合は要チェック



――続いて、介護施設を中心に、お話を聞かせてください。介護施設の耐震化は現在どのような状況にあるのでしょう。

Bさん: 介護施設のほとんどが、昭和56年以降に建築されているため新耐震基準に対応しています。団塊の世代が高齢化するとともに介護施設のニーズが高まって介護施設が増えたので、旧耐震基準の建物は比較的少ないですね。

Cさん: ただ、もともと病院や寮だった施設を購入して、介護施設にしているケースも多いのではないでしょうか。先日も、病院だった建物を介護施設としてリニューアルオープンしたお客様から問い合わせがありました。かなり建物自体が古いので耐震を考える必要があったのです。

昭和56年以降に建築した介護施設は問題ないと思うのですが、それ以前の建物を買収して介護施設にした場合は「耐震化を見直す必要がある」と認識しています。病院や独身寮などを、介護施設にリフォームしたようなケースです。

居抜き物件の方が、新築よりも当然コストを削減できます。しかし、通常のビルより介護施設は耐震の基準が厳しくなるので、助成金がもらえないような問題も発生します。

Bさん: Is値という耐震基準で助成金が決まるのですが、通常は0.6だったとしても病院や学校では0.7、地震の起きやすい静岡県では0.75など高めの基準値が定められています。

――Is値が0.6というのは、どれぐらいの地震に耐えられるものですか?

Cさん: 最大震度6強の地震であっても建物が倒壊せずに、十分に逃げることができる耐震性です。

Bさん: 東京都で介護施設を管轄しているのは福祉保険局なのですが、その資料に耐震制度が0.7以上と明記されています。設計する側としても耐震診断を行って確認することが必要です。

Cさん: ホテルやマンションなどの耐震化対策は国交省など国のメインが管轄していることに対して、介護施設の耐震化の管轄は都の福祉保健局のひとつのセクションということで、あまり注目されない話ではあります。そこで大きな話題にはならないのですが、もし古い介護施設を運営しているのであれば対策が必要です。まずは、耐震診断の概略を知ることが大切ではないでしょうか。

耐震診断と改修の流れ、注意しなければならないこと



――施設の耐震化は、どのような流れで行われるのでしょうか。

Aさん: 3段階に分かれています。第一に耐震診断。診断で悪い結果が出た場合、第二に耐震設計をします。そして設計にしたがって第三に改修工事をします。

――どれぐらいの時間がかかるのでしょう。

Aさん: マンションの場合でいえば、耐震診断に半年、耐震設計に半年、ここまでで一年かかります。入居者がいるため合意形成と管理組合の総会決議が必要です。

Bさん: 合意形成のほかにも、診断と設計を担保するために、第三者機関の評定を取らなければなりません。評定機関によって、足りないものはないか、強度が十分かどうか検討します。したがって、助成金をもらうときには、単純に耐震診断だけではなく、さまざまなチェックが求められます。

2005年に構造計画書偽造問題、いわゆる姉歯事件が起きました。以降、不祥事が起きないように慎重な診断を行うので、時間がかかります。

――合意形成とは?

Bさん: マンションの場合は、改修工事をするためにアウトフレーム等を設置することで、その部屋の居住者は日当たりが悪くなり、「こんな話は聞いていなかった!」という話が出ることもあります。4分の1の居住者が反対ではなかったとしても賛成にならず、浮動票に流れた場合、耐震化の改修自体が否決されてしまうこともあります。

Aさん: 所有者が決めることなので、介護施設の場合、施設全体のオーナーがOKであれば進めることはできるでしょう。

Bさん: ただ、おそらく振動や騒音などで改修工事が大変です。旧耐震で天井にほこりが積み上がっているようなところの工事は、注意しなければなりません。また、ホテルの厨房まわりの工事も同様です。

Cさん: 病院も同じですね。病院の場合は24時間ストップできないので。

Bさん: 改修工事の際に、粉塵は必ず出るものです。介護施設、特に高級老人ホームのような場合は、ほこりを出さずに耐震化するデリケートな設計が必要になるでしょう。

Aさん: 強度が分かれば補強部材がどの程度必要かということは設計できるので、物件ごとにオーナーが嫌がる部分を避けて、どのようにバランスよく配置するか、というノウハウが重要です。

Bさん: 基本的に外部の改修ですね。居住されている室内の改修はやらないこと。外部の改修は建築基準法上、面積が増えるため、行法上で建築確認申請が求められます。しかし、耐震補強による面積増は不問となっています。

そこで介護施設に関しては、どこを補強するか見極めることが重要になります。施工面では、ドリルなどを使わずに無振動や音を最小限にしたものを使って工事をします。

実際の耐震補強例

「診断者選び」が大切な耐震診断



――そもそも耐震診断とは、どういうことを行うのですか?

Aさん: 昭和56年から耐震基準が変わりました。地震の大きさの考え方が、昭和56年以前と現在ではまったく違っています。新耐震基準で設計された建物は、阪神大震災でもほとんど倒壊していません。

とにかく耐震対策が急務だったので、コンピュータに入力するだけで補強の弱い部分などが判定されるような、誰でも診断できるシステムを作りました。このシステムをよく分かっていない設計者が設計すると、安全を重視しすぎて余計な部材を多く入れてしまい、結果として高いコストになるのです。

――なるほど。では、どのようなことに気をつければよいのでしょう。

Aさん: 補強材の種類より「診断者選び」が大切です。一般的に耐震診断は、設計事務所3社ほどに見積りを依頼します。そして、いちばん安いところを選択するんですね。耐震基準で手間を省くと、実際に設計するときに補強部材がたくさん必要になります。

多くの設計事務所では、耐震診断ができないので外注します。安く請け負った場合は手間をかけられないので、コンピュータで簡易的な診断をします。もっとひどい場合は、構造設計が分からない意匠設計者(デザイナー)が診断する場合です。この場合も外注するので、ひどい耐震診断になります。

そういうときにわれわれが耐震診断を見直すと、例えば補強量を半分程度にすることが可能になります。

Bさん: 建物のオーナーは耐震診断で「正解はひとつ」だと思っているんですよ。Is値などから導くので、いわゆる算数の答えと勘違いしています。ところが違います。いくつもの解があります。

構造設計者と意匠設計者、そして実際の改修現場を担当する人間の見解を合わせると、さまざまな検討ができます。ところが、こういう人材を揃えている会社は少ないですね。弊社ぐらいです。そのことを分かっていただけるようになったので、弊社の評価が高まってきました。

――それが新日本管財様、新日本リフォーム様にご依頼するメリットですね。

Bさん: その通りです。一方で、われわれは構造設計者も意匠設計者も施工者も、いただいた図面の通りに施工されているという性善説にのっとって耐震診断・設計をします。ところが古い建物では「天井の梁に鉄筋が入っていなかった」というようなことがあります。どこが設計や施工を請け負ったかということが重要になります。

Aさん: プロの構造設計者が見直すと、補強量が2倍も違う建物になるんですよ。

Bさん: 補強量が多過ぎる設計も不正解ではありません。助成金がらみの場合、評定機関を通すので、評定機関が安全と判定すればダメな設計とはいえないのです。しかし、補強量によって、工事費がまったく変わってきます。また、ここまでやる必要があるのかという判断や、工事費の限度額も考慮しなければならないため、正解はいくらでもあります。

Aさん: 設計料の安さで、設計者を決めるのは注意を要します。設計料で100~200万円ぐらい節約しようとすると、逆に工事費で1,000万円から1億円も費用が変わってしまうことがあります。

――設計でそこまで変わるものですか。

Aさん: たとえば9階建ての建物で、1階から9階まですべて安全を考慮してIs値0.7の耐震基準で設計するのであれば意味があります。想定外の地震を対象にしているからです。ところが設計者によっては、2階が倒壊することを分かっていながら、4階に補強材をたくさん入れるような設計をします。これは意味がありません。

Bさん: 診断ソフトウエアを使って簡単に耐震設計をしても、間違ってはいないのです。ただ、本当にオーナーのことを考えている会社を選ぶことが大切です。

新日本管財と新日本リフォームは「耐震化のプロ」集団



――それでは、新日本管財様と新日本リフォーム様に耐震化対策をご依頼したときのメリットについて教えてください。

Bさん: 第一に「耐震化を熟知した設計者がいること」です。構造設計専門のメンバーを揃えた会社は、全国的にもありません。大手の建設会社には構造設計者がいますが、15名もの部隊を設置しているところは稀有です。

第二に、新日本管財と新日本リフォームは「設計・施工ができること」。設計者と施工者が一体となっているため、耐震診断をした段階から、具体的な補強案をご提示して、費用をすぐに算出できます。現場からの意見をヒアリングして情報を共有しながら、耐震化を検討することが可能です。これは競合他社にはできない強みといえるでしょう。

第三に、さまざまな「技術に裏付けされていること」です。施工のメンバーとしては、現場の所長として新築マンションを設計から竣工まで行った経験者を集めています。マンションの大規模修繕は、塗装系、防水系の会社が改修の工事をします。しかし、ゼネコンで新築マンションを自分で手がけた人間は、考え方がまったく違います。

同時に、大規模修繕や耐震補強工事を合わせて可能なことも強みです。設備の入れ替えまで複合的にできる、いわば「リニューアル・ゼネコン」です。診断、設計から、耐震補強工事、大規模修繕まで、ワンストップでサービスを提供しています。

――介護施設の耐震化をする場合、どれぐらいの時間がかかりますか?

Aさん: マンションと違って合意形成が不要なので、耐震診断に4か月、耐震設計に4か月、改修工事は半年から8か月といったところでしょうか。最後の改修工事は設計次第としかいえません。

――介護施設の耐震化の費用についてはいかがでしょう。

Bさん: 助成金がありますので、それによって変わります。延べ床面積に対して算出する形になります。

――耐震化を行うにあたって、必要なものはありますか?

Bさん: まず、構造図、意匠図、竣工図など、図面があることです。構造図のありなしによって、耐震化診断の費用が大きく変わります。構造図がない場合には、図面を復元しなければなりません。どこにどのような鉄筋があるか探査しながら、図面を作ります。したがって、構造図がないと耐震化のスタートでつまずくケースがたくさんあります。

Aさん: 構造図が無い建物は4件に1件ぐらいあります。

Bさん: 竣工したときに構造図を受け取っているはずなので、図面が1冊になっていると構造図も存在するのですが、分かれていると紛失することが多いようです。

――他にも、必要な書類などありますでしょうか。

Bさん: 建築確認申請や役所検査の写しなども必要です。違法建築に助成金はつかないので、合法であることが前提。「不適合」は法律違反なのでアウトですが、その当時の建築基準法では認められていましたが現在では認められない「不適格」な建物があります。それを確認する書類が必要です。それから、忘れてはいけないことは、税金を滞納していないことです。

――行政の仕組みや法律的な知識をつけておく必要も感じたのですが。

Aさん: その点は、われわれにお任せください。メールなどでお問い合わせいただけば、プロの集団が対応します。

――とても頼もしく感じました。ありがとうございました。


■新日本管財株式会社■
昭和46年設立。従業員数353名(マンションの管理者、アルバイトを含む)。売上高35億円。総合的な建物管理システムと、資産管理ソリューションを提供している。大震災の発生を背景に、業界に先駆けて耐震診断、建物劣化診断の専門部署を開設。耐震診断、耐震補強設計、補強工事までをワンストップで対応する総合力を有する。


■新日本リフォーム株式会社■
昭和60年設立。従業員数30名。そのうち20名が建築系社員。1級建築士、2級建築士、1級施工管理技術士などの資格を持つ。売上高25億円。売上のうち耐震関連(ビルならびにマンションなど)が3割、マンション・戸建ての大規模改修が3割、設備関連が2割を占める。新日本管財でマンションなどの修繕や補修をしていた部門が、リフォームのニーズの高まりによって子会社として独立した。当初は劣化修繕計画の策定など管理主体だったが、耐震ニーズの需要を見込んで建物診断部を強化している。


施設の耐震診断・補強に関してのお問い合わせは下記メールアドレスまでご連絡くださいませ。
mykaigo@paseli.co.jp

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