認知症を発症した場合に起こるトラブルと事前に講じるべき対策について
- 介護に関するお役立ち情報
- 2024/09/02
認知症を発症した場合に起こるトラブルと事前に講じるべき対策について、もし自身や家族が認知症と診断されたら「認知症によってどんなトラブルが起こるのか」とお悩みの方も多いと推察されます。本記事では具体的なトラブルの種類について解説していきます。
※本記事についてはオリックス銀行より提供を受け、掲載しています。
認知症になると
2025年には高齢者の20%が認知症を発症するといわれていますが、今日の医療技術では認知症を完治させる治療法はなく、発症した場合は進行を食い止めるための治療が施されることになります。もし自身や家族が認知症と診断されたら「認知症によってどんなトラブルが起こるのか」とお悩みの方も多いと推察されるため、本記事では具体的なトラブルの種類について解説していきます。
認知症トラブルは、自立状態の低下に起因する「生活関連トラブル」と、意思能力の低下によって法的拘束力を伴う「財産管理・相続関連トラブル」の2種類があります。
前者の生活関連トラブルについては
・1人での生活が困難になる
・行方不明になるリスクが高まる
・自動車事故を起こす可能性がある
・悪質商法の被害にあうおそれがある
など、比較的イメージしやすいかと思います。一方、後者の法的に不可能になる資産・相続関連のトラブルについてはイメージしづらいと思いますので、本章で重点的に解説します。
一般的に、認知症を発症すると意思能力が不十分とみなされ、以下のような資産・相続手続きができなくなります。
・不動産の売買
・相続対策
それぞれ順番に確認していきましょう。
(1)預貯金の引き出し・振り込み・解約ができなくなる
預貯金は、口座名義人本人が管理することが原則ですので、金融機関から「この人は意思能力が喪失している」と判断されると、口座が凍結されて引き出しも振り込みもできなくなります。これは、判断能力が低下した名義人とその財産を守るための対応ですが、一度このような状態になると、本人が金融機関を訪問したとしても口座凍結は解除できず、家族が代理で手続きを行うこともできません。
このことから、「親が認知症になったら親の預貯金から介護費用を捻出すればいい」と考えていても、実際には口座が凍結されてしまうと計画は破綻し、家族の費用負担が必要になるような事態も考えられます。
なお、口座凍結は後見人を立てることで解除可能ですが、後見人制度は意思能力が低下した人の財産を保護するためのものなので、後見開始後は家族による自由な財産管理と使用が制限されることになります。
そのため、介護施設の入居費用に充てたいと思っていても、「ここの施設は高すぎるため許可できない」など、本人や家族の意思が充分に反映されない運用になる可能性があることが問題点としてあげられます。
(2)不動産の売買ができなくなる
認知症を発症し、意思判断能力が低下すると、不動産の売買ができなくなります。理由は、本人の意思にそぐわぬ財産の流出を防ぐためですが、その結果としてさまざまな不都合が生じることになります。
具体的には、介護施設への入所が決まったり、子どもの家で同居が決まったりして、それまで住んでいた自宅が空き家になるケースがイメージしやすいかと思います。空き家のままでは管理も大変で費用もかかるため、一般的には早急な売却を考える方が多いのではないでしょうか。しかし、前述したとおり、認知症を発症していると自宅を売却することができません。後見人を立てることで自宅売却の申し立てができますが、裁判所の許可が必要で、時間もかかります。
自宅の売却資金を介護費用に充てようと考えている場合は、このように計画に支障が出ることもあるので事前の対策が必要になるのです。 また、アパートなどの賃貸物件を所有している場合は、名義人が認知症になってしまうと、賃貸借契約の更新や解除、修繕なども一切できなくなるため、注意が必要です。
(3)相続対策ができなくなる
資産がある方は、「相続税対策をしなければ」と考えるかと思います。しかし、認知症を発症してしまうと相続税対策ができなくなってしまいます。相続税対策には暦年贈与信託や生命保険などを活用した生前贈与や、賃貸物件を建設するなどの方法があり、それらを実行するにはすべて契約が必要になります。しかし、認知症を発症して意思能力が低下した場合、契約行為ができなくなってしまいます。
例えば、暦年贈与中に認知症を発症すると、次の年以降に贈与することはできません。このように、相続税対策を行うには認知症の発症前に準備をしなければならないため、早めの行動が必要です。
また、資産を相続するにあたって親族内で紛争が起きる可能性のある場合や、資産の配分について自身の意思を反映させたい場合など、遺言作成を考えるかと思います。しかし、遺言の作成も法律行為ですので、認知症を発症するとその作成ができなくなってしまいます。認知症診断後に作成された遺言は無効となる可能性が高く、更なる混乱を招くことにもなりかねません。
認知症になる前に行うべき対策
ここまで、認知症の進行によるトラブル事例について紹介しましたが、特に法的に不可能になる資産・相続関連のトラブルは、早期対策を講じることが重要です。
認知症の症状が出てからでは利用できない対策もあり、発症前に検討していくことが必要です。具体的な対策について以下に説明していきます。
(1)家族信託の組成
家族信託とは、自身の財産を管理・運用する権限を受託者となる家族に与え、認知症による資産凍結を防ぐ制度です。
以下のようなトラブル事例は、家族信託を組成することで解決可能な場合があります。
・不動産の売買や賃貸借契約の更新、修繕などができなくなる
・相続対策ができなくなる
家族信託では受託者となる家族が、信託契約に定めた範囲内で資産の管理や運用を行う権利が与えられることから、家族が本人の思いを尊重しながら財産管理をすることが可能になります。
また、家族信託そのものに直接的な節税効果はありませんが、財産の承継先を指定できるため、相続対策を兼ねることが可能です。
つまり、認知症の発症から死後の相続対策までを一貫して行うことができるということです。
ただし、家族信託も契約行為であるため、意思能力の喪失後は組成することができません。「最近意思能力が低下してきて不安なので家族信託を組成したい」という場合は早めのご相談をおすすめします。
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(2)遺言書の作成
相続時に親族間で紛争のおそれがある場合や、相続人以外の人に遺産を遺したい場合、法定相続割合とは異なる割合で遺産分割したい場合などは、遺言書の作成が有効です。
なお、前述のとおり、遺言書の作成も法律行為のため、認知症を発症し意思能力がなくなってしまうと作成できなくなってしまいます。したがって、遺言書についても認知症発症前に作成する必要があります。
なお、遺言書は公正証書での作成がおすすめです。
自筆証書での遺言は、費用がかからず公証人の確認も不要なため、比較的簡単に作成できます。しかし、その内容に万一不備があって無効になってしまったり、本人以外が遺言の存在自体を知らず発見されなかったりする可能性もあります。
その点、公正証書遺言であれば公証人が関与するため有効な遺言としての効力を充分に担保でき、公証役場で原本を保管するため紛失や隠蔽、未発見の恐れもありません。
遺言書の作成についても、専門家による具体的な手順や必要性などをアドバイスできますので、気軽にご相談ください。
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(3)相続対策
一般的に認知症を発症すると意思能力がないと見なされる可能性が高く、相続対策ができなくなってしまいます。例えば、毎年一定額を非課税枠の範囲内で贈与する計画を立てていたとしましょう。
しかし、途中で認知症を発症したら計画が未達に終わってしまいます。暦年贈与は贈与手続きのたびに契約が必要で、認知症を発症し意思能力がないと判断された場合、翌年以降の贈与はできません。
生命保険の非課税枠を活用した相続税対策についても考え方は同じで、本人の契約行為を必要とする相続税対策を検討している場合は、認知症発症前の意思能力があるうちに行う必要があります。また、前述した家族信託を活用することでも相続対策が可能です。
賃貸物件等の不動産を建築し、相続税を圧縮し、その管理、運用を受託者に任せる方法や、信託財産精算時の受け取り割合を指定することで相続税負担を減らせる場合もあるので、相続税対策をお考えの方は家族信託の組成も検討することをおすすめします。
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