家族信託のメリットと注意点
- 介護に関するお役立ち情報
- 2024/10/02
家族信託とは、「認知症による資産凍結」を防ぐ、家族による財産管理方法です。
認知症になり意思能力を喪失したと判断されてしまうと、銀行口座からお金を引き出せない、不動産の売買ができないなど本人の財産が動かせなくなるリスクがあります。
そのようなトラブルを回避するために、本人(委託者)の財産の管理・運用を信頼できる家族(受託者)へ信託する方法です。
この記事では、家族信託のメリットと注意点をわかりやすく解説していこうと思います。
家族信託の6つのメリット
1. 柔軟な財産管理ができる
2. 遺言としての機能も果たす、相続時の負担が軽減される
3. 不動産の共有によるリスクを回避できる
4. 倒産隔離機能がある
5. 二次相続以降についても決められる
6. 事業承継対策もできる
メリット1.柔軟な財産管理ができる
家族信託では、委託者の財産の所有権が受託者に移転するため、委託者の意思能力に関わらず財産の管理・運用・処分を行えます。
何も対策せず、認知症により一度資産凍結が起こった場合、財産を動かすには成年後見制度を利用する必要があります。成年後見制度は、家族が後見人に選ばれるとは限らないこと、基本的には本人が生活を送るために必要な支出のみが認められるなど利用しづらいといわれています。また、自宅を売却する際には、家庭裁判所の許可が必要となる(民法859条の3)など、手続きに時間がかかる恐れもあります。
一方、家族信託では家族間で財産管理を行うため、本人の意向に沿った財産管理・運用・処分が可能になり自宅の売却に家庭裁判所の許可を得る必要もありません。
メリット2. 遺言の代わりとして利用できる
家族信託は、遺言の代わりとして利用することもできます。家族信託で締結する契約書内で、委託者が死亡した後の信託財産の承継先を定めることができるためです。
委託者の死亡をもって信託契約は終了し、信託財産は指定した帰属先(相続人・第三者)へ承継されます。
また、信託契約内で承継者や内容を適切に定めておくことで、相続が発生した際の遺産分割協議が不要になります。遺産分割協議では相続人全員で話し合う必要があり、相続人の誰かが認知症などで意思能力を欠いている場合は、成年後見人を立てなければ遺産分割協議自体が行えません。
全員が元気なうちに納得のいく形で財産の承継方法を決めておけば、遺産分割協議による家族の負担やトラブルも軽減できるでしょう。
ただし、家族信託は「信託財産」についての取り決めであり、信託財産以外の承継先については、別途遺言書の作成が必要です。
メリット3. 不動産の共有によるリスクを回避できる
共有状態にある不動産の所有権を、家族信託で特定の受託者へ一本化することで、共有不動産の凍結リスクを回避できます。
1つの不動産を兄弟や親族などの複数人で共有している場合、1人でも認知症になり契約能力がなくなってしまうと、収益不動産の全体が凍結してしまう危険があります。新しい入居者との契約をする場合や、大規模な修繕を行う場合には、所有者全員の意思が必要になるためです。
一方、家族信託では、不動産の所有権は特定の受託者に移転し、不動産の管理・運用権限もその受託者が持ちます。
また、受益者として他の共有者を設定しておけば得た家賃収入は、全員が得ることができます。
メリット4. 倒産隔離機能がある
信託した財産は、あくまで財産権を持っている委託者のものであるため、受託者の債権者は差し押さえができません。これを「倒産隔離機能 」といいます。 ただし、受益者が持つ「受益権」については、差押えの対象となることがあるため、注意が必要です。
メリット5. 二次相続以降についても定められる
遺言の効力は一代限りとなります。
一方、家族信託では、配偶者や子がなくなった後、その先の孫やひ孫に相続させるような複数世代にわたる相続が可能です。これを「受益者連続型信託 」といい、委託者が亡くなったあとの受益者を何世代も指定することができ、受益権が引き継がれていきます。
よって、お子さまのいないご夫妻で、妻を相続人にした後に、妻が亡くなってしまった際の財産の行方を決めておきたいという方、また再婚した後妻を相続人にし、その次に受益権を前妻との子どもに渡したい方など、さまざまな希望を実現することも可能です。
メリット6. 事業承継対策ができる
家族信託では、自社株式を信託することにより、委託者の認知症に備えた事業承継対策が可能です。
例えば、経営者が認知症になれば議決権行使ができなくなります。
一方、家族信託では、現社長が「委託者兼受益者」となり、後継者たる子などを「受託者」として、自社株を信託財産として信託することにより、現社長の意思能力にかかわらず、受託者によって議決権行使ができるようになります。
また、前段で解説した「受益者連続型信託」を活用すれば、孫やその後の世代まで自社株式の承継先を定めることも可能です。
このように家族信託にはさまざまなメリットがあります
「メリットはわかったけど、どこに相談したらいいか分からない」といった方でもお気軽にご相談ください。
家族信託を行う際の6つの注意点
1. 家族信託自体に節税効果はない 2. 受託者を決める際は慎重に 3. 遺留分の侵害に注意する 4. 身上保護は不十分な可能性がある 5. 委託者に意思能力が必要である
注意点1. 家族信託自体に節税効果はない
家族信託自体には、直接的な節税効果はありません 。 不動産などの名義は受託者に代わりますが、財産権(受益権)は委託者のもとに残るためです。委託者に相続が発生したときは、信託財産は信託契約で決めた人に承継され、その時に相続税と同様の税額を納付する必要があります。
注意点2. 受託者を決める際は慎重に
家族信託において、実際に財産管理の業務を行うのは受託者です。
受託者の判断で不動産の売却が可能になるなど、受託者に与えられる権限は大きく、場合によっては家族のうちの1人が大きな決定権を持つ状況に、不信感を覚える家族もいるかもしれません。
また、受託者は信託財産に関する出費や収入を全て記録し、委託者に1年に1回報告する必要があります。
認知症の発症から相続までの期間は一般に5〜10年あると言われており、受託者を長期間拘束するため、受託者の負担は大きくなります。
注意点3. 遺留分の侵害に注意する
遺留分は、法定相続人(配偶者・子・父母)に最低限保証された相続分のことです。 家族信託契約によって決めた後継者に財産権(受益権)を承継する際に、遺留分を持つ相続人がいる場合、遺留分相当額のお金を請求してくる可能性があります。 遺留分が発生しないように専門家と相談しながら設計することや、あらかじめ家族会議をしておくなど、未然に防止できる工夫をとっておくことも重要です。
注意点4. 身上保護は不十分な可能性がある
身上保護とは、本人の日常生活の支援や療養看護を行うことです。 例えば、医療手続きの代行や、介護施設入所時の契約手続きの代行が、身上保護の内容に含まれます。 家族信託で受託者に与えられる権限は、財産管理がメインであり、身上保護に関する権限がありません。 身上保護までカバーしたい場合は、家族信託ではなく成年後見制度を選ぶ必要があります。
注意点5. 委託者に意思能力が必要である
家族信託は委託者と受託者の契約で成立するため、両当事者に契約能力・判断能力がある段階で信託契約を結ぶ必要があります。 委託者の認知症が進み、委託者の意思能力が確認できない場合は、家族信託契約を結ぶことはできないため、注意しましょう。 委託者の意思能力が不安であれば、早めに専門家に相談することをおすすめします。お気軽にご相談ください。
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