口腔ケアとは?やり方やポイントなども紹介します。
- 介護に関するお役立ち情報
- 2020/12/01
口腔内の清潔を保つことは一般的に習慣化された当たり前の行為です。口腔内の汚れや歯垢除去を目的とし、虫歯や歯周病予防として行われています。しかし、口腔ケアは口腔内を清潔に保つだけではありません。口から食べ続けるために噛む力も維持、改善することが必要です。いつまでも食事を美味しく食べ続け、健康であり続けるためにも口腔ケアは非常に重要な役割を担っています。とくに高齢者は加齢に伴う口腔内トラブルが少なくありません。今回は口腔ケアについての概要や効果、手順など、知っておきたいポイントをご紹介します。
当コラム内容について
口腔ケアについて、1専門家へのインタビュー内容をもとにまとめたものです。
ご紹介する内容で異なる場合もあるかもしれませんが、ご理解の程よろしくお願い致します。
口腔ケアとは?
口腔内を清潔に保つ・口腔機能を維持・向上すること
口腔ケアの役割には、器質的口腔ケアと機能的口腔ケアの2種類があります。器質的口腔ケアは、口腔内を清掃することによって細菌の繁殖予防や口腔機能の向上を図る目的があります。一方で機能的口腔ケアは、機能訓練を行うことによって嚥下や発音などの働きを活発にする目的があります。
このように口腔ケアでは口腔内を清潔に保つだけでなく口腔機能の維持、改善に努めていくことが大切です。特に高齢者の場合、加齢に伴う唾液分泌量の低下により口腔内乾燥が見られます。乾燥が起こると細菌が繁殖しやすくなり、汚れた唾液を誤嚥することで誤嚥性肺炎を引き起こしてしまう恐れがあります。また、口腔内の細菌は全身の病気につながるといわれています。
歯周病の病原菌は、血液や唾液を介して体内へ入り込み全身に影響を及ぼします。主な病気には、脳梗塞、心筋梗塞、肺炎、動脈硬化、糖尿病、肥満、骨粗鬆症などがあげられます。
口腔ケアを行うことでのメリットは?
口腔感染症が改善される!
口腔内には、目には見えない細菌が常にいます。その数なんと700種類と言われています。通常は唾液の自浄作用によって洗い流されたり、毎日の歯磨きによって細菌は抑えられたりしています。しかし、加齢や病気、薬剤などの影響によって唾液分泌量が低下したり、口腔清掃が不十分であったりすると、細菌は増加し虫歯や歯周病など様々な病気を引き起こします。日々の口腔ケアを実施することで、確実に細菌の数を減少させることができます。
口腔内の細菌は全身に関わる感染症や病気を引き起こすため、感染症予防はもちろん健康を維持、増進するためにも口腔ケアは欠かせません。
身体回復や維持・食欲増進につながる!
口腔トラブルは加齢とともに増加し、歯の喪失や唾液分泌量低下による口腔乾燥など様々な変化があらわれます。その結果、食べることを諦めてしまったり、人との会話を避けてしまったりすることにもつながり、栄養不足や運動機能などが低下してしまいます。このような状態が続くと全身に様々な悪影響を及ぼします。口腔ケアを行うことで、歯の状態を観察し定期的な歯科受診や治療によって口腔環境は改善されます。
義歯の不具合や歯の喪失によって食事が上手く取れず、噛む力が衰えてしまう例が少なくありません。日頃から口腔内を観察し、トラブルを早期に発見、対応することで様々な病気や症状を予防することができます。
感染症の予防につながる!
口は体の入り口であり、空気や食べ物はもちろん、病気を引き起こす病原体などの異物も入ってきます。通常は唾液の持つ成分が口腔内にある汚れや細菌などを洗い流します(自浄作用)。しかし、加齢や薬剤の副作用、病気などによって唾液分泌量の低下が起こりやすくなったり、口腔ケアが不十分であったりすると、口の中に付着しているウイルスや菌などが活動しやすい環境をつくってしまいます。
適切な口腔ケアを行うことで、インフルエンザの発症率が10分の1になるという研究結果があるそうです。口腔ケアは、虫歯や歯周病だけでなく様々な感染症を予防する働きがあるのです。
認知症予防にも効果あり!
噛むことは、脳の血流を促し活性化につながるといわれています。食事を取り込むと食べ物を噛み砕き、飲み込むために舌を使ったり、顔の筋肉や口腔内を動かしたり、自ら脳へ指令を出すための活動が働きます。そうすることで、脳が刺激され認知症の発症リスクを軽減できることが分かっています。
一方で、歯の喪失や義歯などによって不具合があると、噛む力が低下し認知症を発症させるリスクが高くなります。噛む力を維持するためにも口腔内を清潔に保つと同時に、口腔内の粘膜へのマッサージなども行って、口腔機能の維持・改善を目指した口腔ケアを取り入れていきましょう。
自宅でも出来る!?口腔ケアのやり方を紹介!
必要な道具が揃えば自宅でもできる!
口腔ケアは、一人ひとりの口腔環境に合った方法で実施していきます。必要な道具が揃えば、自宅でも実施することができます。まずは口腔内の状態を把握し、歯の状態や義歯の有無、出血や傷などの口腔トラブルなどないか観察を行い、物品を準備していきます。
歯がある人の場合
準備するもの:
歯ブラシ、歯間ブラシ、スポンジブラシもしくはガーゼ、歯磨き剤、水の入ったコップ、必要に応じてマウスウォッシュ
義歯装着の人の場合
準備するもの:
義歯専用歯ブラシ、スポンジブラシもしくはガーゼ、歯ブラシ、歯磨き剤、水の入ったコップ、必要に応じてマウスウォッシュ
歯のない人の場合
準備するもの:
スポンジブラシもしくはガーゼ、水の入ったコップ、必要に応じてマウスウォッシュ
口腔ケアの手順について
口腔ケアでは、個々の状況に応じた必要物品の準備を行います。口腔ケアを実施する場合は、必ず本人への説明を行い同意を得ましょう。口腔ケアは日常生活の一部であり、生活リズムを整える役割もあります。ケア前にホットタオルで顔の清拭を行うと、リラックスしていただけるのでおすすめです。
姿勢を整える
口腔ケアを安全に実施するために姿勢を整えます。歩行できる方には洗面台で行っていただきますが、立位が難しい方は車いすやいすを利用して洗面台の前で行います。ベッドからの移動が難しい方の場合は、なるべく座位に近い形でベッドアップしていただき、頸部が前傾になるように枕やクッションを用いて保持します。
うがいを行う
事前に口腔内を湿潤させることによって、乾燥している唇や口腔内の出血やひび割れなどを防止します。食後の場合は、口腔内に残っている食物残渣を取り除いてスムーズなケアが実施できるように準備します。
ブラッシング(歯のある方)の実施
自分で行える方にはセッティングだけで、なるべく自分の力で実施していただきます。自力で行うことが難しい方の場合、ブラッシングの介助を行います。
まず歯ブラシを少し水に濡らして、ペンを持つように軽い力でブラッシングを行います。歯と歯の間や奥歯、歯の裏側、歯と歯肉の境目は汚れが残りやすいので、一本一本丁寧に磨きます。歯の汚れはブラッシングで十分に除去できるので、歯磨き剤を使用する場合には少量にします。泡立ちによって口腔内が見えなくなったり、ブラッシングの満足感が得られやすいので磨き残しが出てしまったり、うがいの回数が増えることがあるので、最小限に留めるためです。
※義歯装着の場合:
義歯には総義歯と部分義歯がありますが、いずれも外した場合は一度うがいをしていただき汚れや食べかすを洗い流します。義歯にはたくさんの菌や微生物が付着しているため、専用のブラシや洗浄剤を使用して洗浄します。
よく義歯を装着したままの方がいますが、歯肉を休ませて誤嚥を防止するためにも就寝前は義歯を外していただくようにします。その際、変形しないように必ず洗浄剤や水の中で保管するよう注意が必要です。また、外した義歯をティッシュペーパーに包み、ごみと間違えて捨ててしまった事例が多くあります。義歯の保管方法にも注意が必要です。
口腔粘膜のケアを行う
口腔ケアは、歯を磨くだけではありません。口腔内が乾燥している方の場合では、唾液の分泌量が少ないため粘膜に唾液などの付着物がこびりついていることがあります。頬の側の粘膜や上顎などスポンジブラシやガーゼなどでぬぐい取ります。また、舌の表面は舌苔があります。舌苔は細菌や食べかす、粘膜などの老廃物が固まってできた集合体であり、口臭の原因になります。ブラッシングの延長線上で舌を歯ブラシで磨く方がいますが、舌は粘膜で覆われたデリケートな部位です。専用の舌ブラシかスポンジブラシ、もしくはガーゼなどでやさしく汚れを取り除きます。
うがいを行う
誤嚥しないよう、うがいは顔を上に向けて行わないようにします。ベッド上で行う場合には、少しの水で口全体を伝わるようにうがいをしていただきます。汚水はガーグルベースンを使用してゆっくり吐き出してもらいます。
口腔ケアを行う際の注意点
口腔ケアで起こりがちなトラブルでは、誤嚥が多くあります。ケア中に出た水分で誤嚥してしまい、誤嚥性肺炎につながるケースも少なくありません。まずは誤嚥しにくい姿勢を整えることが大切です。また、口腔ケアを行う前には必ず口腔内の観察を実施します。
体位を整える
口腔ケアを行う前には、誤嚥を予防するための体位を整えることが重要です。基本的にはなるべく立位や座位に近い姿勢で行います。座位が難しい方には、可能な限り体を起こします。その際、唾液や口腔ケアで排出される水や汚水を誤って誤嚥しないようにします。その場合、頭がやや前傾になるように枕やクッションを使用し姿勢を保持します。
口腔内の観察
以下のポイントで観察していきます。
・唇や口角部分の乾燥は見られないか
・口腔内の乾燥はあるか
・歯垢や歯石はあるか
・口臭はどうか
・歯はぐらぐらしていないか
・義歯を装着しているか
・義歯によるトラブルはないか(合っているか)
・舌の状態はどうか(乾燥、舌苔)
・食物が口腔内に残っていないか
・口腔内の痛みはないか
・出血や傷はないか
・歯肉の腫れや発赤などはどうか
・唾液や痰などの分泌物はどうか(乾燥によるこびりつき)
など
歯科に通院ぜずに口腔ケアをしてもらう方法は?
「訪問歯科」の利用がおすすめ!
訪問歯科診療とは、要介護高齢者や寝たきり、歩行困難など、通院が難しく歯科治療が必要な方のために自宅や施設に訪問し歯科診療を行うことです。高齢者の場合には、歯に関する問題をたくさん抱えているにも関わらず、受診率が低く適切な治療やケアが受けられていない状況があります。
80歳で20本の歯を維持できている方は約20%といわれ、その多くは食べ物を咀嚼する機能の改善が必要だとされています。なかでも義歯などの不具合から食欲が低下し、生きる気力までも失ってしまうこともあります。口腔内の健康を維持することは大切なのです。
早期発見、早期治療はもちろん、日頃から定期的なチェックが欠かせません。大きな治療を要さない限りは在宅での歯科診療を継続することが可能です。歯科診療では診察、口腔ケア、リハビリテーションの3つを軸に、口腔の健康を維持し増進することが大きな役割となっています。
【利用手順】
1.依頼方法には色々な方法があります。ケアマネージャーやかかりつけ医、お住まいの歯科医師会、行政の窓口などでご相談ください。
2.訪問日時を決定後、歯の状態や困っていることなどを具体的に伝えられるように準備します。例えば、歯のぐらつきや義歯の不具合、飲んでいるお薬、現在の病状や状態など、伝えられるようにします。また保険証、介護保険の準備も行っておきましょう。
3.訪問での診察、治療では主に、虫歯、歯周病の治療、予防、義歯の作製、修理、調整、口腔ケア、感染症予防、誤嚥性肺炎の予防、摂食嚥下障害のリハビリテーションなど、一人ひとりに合わせた必要な治療やケアを行います。
定期的な診察や治療、ケアを行っていくことで口腔機能の維持、増進につながります。口腔環境を改善し維持していくためにも定期的なメンテナンスが重要です。
口腔ケアによる健康維持で医療費の削減にもなる!?
年間の平均医療費が51万円にも及ぶケースあり!
口腔内の健康を維持することによって、高齢者に多い誤嚥性肺炎予防や感染症の予防につながります。また、口腔を刺激することで唾液の分泌量が増加し食欲の向上、口腔機能の維持、増進につながります。歯科受診を定期的に行うことで歯の寿命が伸び、いつまでも口から食事を食べられることもできます。生きがいや楽しみがあることで生活にメリハリがつき、生きがいにもつながるといわれています。
歯周病が及ぼす全身へのリスクは大きく、脳梗塞や心筋梗塞、がん、糖尿病などがあります。こうした病気も口腔ケアを実施し続けることで健康寿命を伸ばしていくことが可能です。口腔ケアはそれだけ多くの役割を担い、医療費の削減までつながります。実際に歯が0~4本残っている場合には年間517,400円にも及び、一方では、歯が20本以上残っている場合、年間341,500円というデータがあります。
出典:香川県歯科医師会「平成22年度香川県歯の健康と医療費に関する実態調査」より
監修者
<藤井 寿和氏>
合同会社福祉クリエーションジャパン 代表
陸上自衛官を経験後、介護の仕事に転身。医療法人の事業部統括マネージャーに就任した後、独立。
● 介護施設 現場支援コンサルタント
● レクリエーション介護士1級・2級 公認講師
● 介護情報誌「介護Times Tokyo」および「TOWN介護Tokyo」編集長
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