大きな病気をせず健康で80歳を迎えた1人暮らしの女性。一生、我が家で暮らすと決めていました。ところが足の骨折が原因で急きょ老人ホームを探すことになりました。本人はすぐに自宅に戻れると信じ「近所ですぐ入居できる」ホームに入居しましたが、さらなる不運が重なり、自宅に戻ることはかなわなくなりました。ライフスタイルに合わない老人ホームでの暮らしに気持ちは沈むばかり。健康なうちに老人ホームを探しておくべきだったと後悔しています。
自宅で転倒し大腿骨を骨折
60代でご主人を病気で亡くし、長年、ひとり暮らしを続けてきた瀧島松子さん(80歳/仮名)。資産は開業医だったご主人が残してくれたものが十分にあり、2人の息子さんには「世話にはならない」と決めていたといいます。
70歳になるまではジョギングを、それ以降は30分のウォーキングを日課にしており体力には自信がありました。病気もケガにも縁はなかったそうです。
ところが80歳を過ぎたある日、自宅の段差で転倒してしまいます。何とか自力で救急車を呼び、病院へ搬送されました。診断は右大腿骨の骨折。骨の強さには自信を持っていたのですが年齢には勝てなかったようです。
保存療法か手術か選択を迫られた瀧島さんは迷わず手術を選びました。保存療法では1ヵ月以上寝たきりになってしまうと聞いたからです。術後の入院中は痛みがあるなか、必死でリハビリに取り組みました。
退院後「一人暮らしは無理」医師の言葉に愕然
退院の目途が立ち、長男夫婦が呼ばれ、今後の暮らしについて主治医から話がありました。自宅での注意事項を聞かされると思っていた瀧島さんに、主治医は衝撃的な言葉をかけます。自宅での一人暮らしはまだ難しい。しばらくは家族と同居するか施設で暮らすようにと言うのです。
息子夫婦は事前に主治医から話を聞いていたようで、躊躇なく「一人で暮らせるようになるまで一緒に住もう」と言ってくれましたが、瀧島さんは「いいえ、施設でリハビリを頑張って、すぐに自宅に戻ります」ときっぱり断りました。そして、息子に自宅から近くて空いている老人ホームを探してもらうことにしたのです。
すぐに入居できれば……。その安直さが悲劇を起こした
ケアマネジャーがつき、長男と相談して決めてくれたのは、市内のはずれに建つ有料老人ホームでした。築25年、全室トイレ付個室ではあるものの、家具はベッドとわずかな収納だけと、よく言えばシンプルではあるものの、どこか無機質な印象。短期間の居住も考慮して、入居一時金がなく、利用料の安いところをケアマネジャーが選んでくれたようです。
これまでの生活レベルとの違いに不安を感じましたが、逆にこの状況が頑張り屋の瀧島さんの心に火をつけました。ホーム内で行われるリハビリを頑張って1ヵ月ほどで自宅に戻ろうと決意したのです。
しかし悲劇が再び起こります。利き手の手首を骨折してしまったのです。介護士や理学療法士のいないときには歩かないように言われていたのに、自力でトイレへ行こうとして転倒し、手をついてしまったのです。入院にはなりませんでしたが、着替えや食事もひとりではままならず、老人ホームでの生活が長引くことになったのです。
元気なうちに終の棲家を選んでおくべきだった
気力を失い、ベッドからほとんど起き上がらなくなった瀧島さんの筋力はみるみる衰えていきます。会いに来てくれた長男夫婦はそんな瀧島さんを見て「施設を変えよう」と言ってくれました。こんなことなら最初から自分のライフスタイルにあった老人ホームを探せば良かったと、後悔の気持ちがいっぱいでした。
仮の住まいと考えていたから、どのような施設でも良いといったものの、本音を言えば、もちろん設備面に不満がありましたし、食事も口に合わず、無理をしていました。入居者ともなかなか話が合わず、少々退屈な思いをしていたそうです。
開業医の奥様だった瀧島さん。自宅はゆとりのある豪華な造りで、四季折々の庭が自慢だったといいます。ずっと住み続ける施設なら、庭の緑のキレイでハイクラスなホームがよかった、好みに合った食事も外せない、バックグランドが似たような入居者が多ければ、楽しく過ごせたかもしれない……次々と悔しい思いがあふれてきます。
また自宅で過ごす以外の選択肢を考えてこなかった瀧島さん。きちんとこれからを見据えていれば、施設に入る可能性についても思いを巡らすことも、長男夫婦と話をしておくチャンスもあったでしょう。ご家族と思いを共有していれば、急な話であっても対応できたかもしれません。
転居する老人ホーム探しを始めた瀧島さんは「一生、自宅で過ごせると思い込んではだめ。終の棲家は元気なうちに探しておくべきだった」と息子さんにこぼしているといいます。