ひとり暮らしになり、生活に不安を抱えても「老人ホームには入りたくない」とかたくなに拒絶する人が一定数いらっしゃいます。そうしたなかには、数十年前までの「姨捨山」のようなイメージが払しょくできずにいる人も少なくありません。令和の事情を老人ホーム選びのコンシェルジュが回答します。
老人ホームに良い印象がなく、入居を決めるのが不安です。
質問:夫に先立たれ、独居となりました。子どもとは離れて暮らしています。将来を考えると老人ホーム入居を考えなくもありませんが、正直言って印象がよくありません。暗い、臭う、汚い……などの想像をしてしまいます。別のサービスで利用している企業が老人ホームを経営していると聞いたのですが、相談してみるのは得策でしょうか?(70代/女性)
回答:悪い印象を持っている場所に永住するのはおすすめできません。しかし昨今の老人ホームは目を見張るような素敵な場所が多くあります。もちろん施設によって違いはありますが、高級マンションのような内外装、最高級ホテル並みの設備とおもてなしを整えたホームも少なくありません。入居者する、しないに関わらず、数ヵ所、見学してみると印象はまったく変わると思います。
介護度の高い入居者がいると「におい」が問題になるというのも昔の話で、現在はほとんどの施設が消臭対策にでき得る限りの力を入れています。また「暗い」印象とのことですが、真逆の「明るい」施設が圧倒的です。職員も笑顔で対応してくれます。
元気なうちから入居できる「自立型」という選択肢も
昭和の時代は「家で介護するのが当たり前」といった風潮があり、親が老人ホームに入居していることを隠す世帯も少なくありませんでした。しかし令和の今は、「自宅で過ごすより、快適な老人ホーム」がたくさん存在し、素敵なところに入居できた人をうらやむほど、昔とは状況が変わってきています。
従来の老人ホームは、「要介護」の認定を受けていることが入居の条件でしたが、近年は介護が必要でない元気な人も入居できる「自立型」が許可され、部屋数を増やしています。仕事や趣味を続けながら老人ホームで暮らすこともできますし、当然、介護が必要になれば、相応のサービスでケアを行ってもらえます。
自宅で一生、ひとりで暮らせるかを考えてみましょう
住み慣れたご自宅での生活を続けたいという思いは多くの人が持っていると思います。しかし、平屋でなければ屋内に階段があります。古い住宅であれば段差も多いでしょう。風呂の浴槽は高齢になっても出入りのできる高さでしょうか。車いすで家の中を自由に動けるつくりになっていますか? 高齢者や介護が必要な方が住むことを前提に設計されていなければ、年齢とともに自宅に不都合が出てくるのは当たり前のことです。
体調が悪くなったときや転んでしまったとき、見つけてくれる人がいなかったらと想像すると不安にもなります。本当に自宅で一生暮らしていかれるかを、一度しっかりと想像してみてください。
地方都市の閑静な住宅街に住んでいた70代の男性は、免許返納のタイミングで老人ホームに入居されました。買い物も通院も車での移動が必須な立地だったからです。「買い物を頼める」「通院に付き添ってくれる」などの有料サービスが受けられる老人ホームに入居し、快適な毎日を送られています。
不安の払拭といった理由以外でも施設を選ぶ方は多くいます。旦那様と2人暮らし、毎日の食事の用意が面倒……そんなご夫婦は、食事にこだわって施設を探されました。また「自宅」にこだわる方がいる一方で、「自宅とは違う生活」を前提に施設を探される方も。門限がないまでも外出時にどの程度の外出か聞かれたり、掃除や洗濯など定期的な生活サポートがあったり。ある程度制限のある生活に安心感を覚えて施設への入居を決める……そんな方も増えています。
経営母体によって異なるハードとソフト
従来、老人ホームの多くは医療法人や社会福祉法人が経営することが多かったのですが、近年は交通会社やデベロッパー、ゼネコンをはじめとする民間企業が経営母体となっているケースが増えてきています。大手だから安心というわけではありませんが、悪い噂が流れれば他の事業にも影響が生じる……このようなことを考えれば、徹底した努力を行っていると考えて間違いはないでしょう。
「接客」「食事」「デザイン」「流行」など、各企業の色が反映され、ハードやソフトにも違いがでてきます。徹底して利用者の目線にたった設計やおもてなしを実践する、三ツ星レストラン並みの食事を提供する、大人が楽しめる空間づくりを意識するなど、見学をしてみると、それぞれの特徴に驚かれると思います。
経営母体別の特徴を知りたい場合には、私たちのような老人ホーム選びのプロにご相談いただくのが良いと思います。経営母体だけでなく、施設長の人柄や福祉に対する考えかたなどもお伝えできます。
質問者様のように、老人ホームの経営母体とつながりがある場合は、いち早く空き部屋の情報を流してもらえるなど特別なサービスを受けられるケースもあると聞きます。見学に行く前に電話で関係性を知らせておくのがおすすめです。